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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)378号・昭59年(ネ)368号 判決

控訴人は、農業協同組合の事業は農業協同組合法一〇条によりその種類と範囲が法定されており、本件連帯保証契約の締結は、農業協同組合の事業の範囲外の行為として無効である旨主張するので、以下右抗弁について判断する。

1 農業協同組合法一〇条は、農業協同組合が行うことができる事業を制限的に列挙しているが、同条六項二号によると、組合員の貯金又は定期積金の受入事業を行う組合は、組合員のために、国、地方公共団体若しくは定款で定める金融機関に対して組合員の負担する債務の保証を行うことができるものとされている。そして、≪証拠≫によると、訴外信楽農業協同組合(以下「信楽農協」という。)は組合員の貯金又は定期積金(≪証拠≫に定期預金とあるのは誤記と認める。)の受入事業をも行う組合であり、その定款には「国、地方公共団体、農林中央金庫(農林中央倉庫とあるのは誤記と認める。)、若しくは滋賀県信用農業協同組合連合会に対して組合員の負担する債務の保証」が事業目的の一つとして掲げられていることが認められる。ところで、信楽農協が連帯保証をした主債務者である訴外株式会社光陽会(以下「光陽会」という。)が信楽農協の組合員でなかったことは≪証拠≫に徴して明らかなところであるから、信楽農協がした連帯保証は、いわゆる員外保証である。

同法一〇条六項二号が農業協同組合の行い得る保証の範囲を主債務者が組合員である場合に限定した理由は、農業協同組合が、相互扶助の精神に基づき、組合員に対し個別的、経済的な助成を行うことにより農業生産力の増進と農民の経済的社会的地位の向上を図るため組織された団体で、その行う事業によって組合員のために最大の奉仕をすることを目的とする非営利法人であることによる。このことから考えると、組合員の負担する債務の保証(いわゆる員内保証)である限り、国、地方公共団体及び定款で定める金融機関以外の債権者に対してする場合であっても、同条一項一二号所定の附帯事業に当たるものとして、組合の事業目的の範囲内の行為であると解する余地があるが、農業協同組合が員外保証をすることは、その行為が組合の経済的基礎を危くせず、組合員の利益に反しないなど、組合の本来の業務遂行のため不適当とはいえない特段の事情がある場合を除き、農業協同組合の助成団体性に反し、組合の事業遂行のため必要な範囲を逸脱するものであって、右行為は無効であると解するのが相当である。

2 そこで、本件について右にいう特段の事情の有無につき検討する。

前記二において認定した事実の要旨は次のとおりである(前叙のとおり、本件の事実関係は複雑であるため、以下においては、判断に必要かつ十分な限度で、できるだけ事実関係を単純化、簡略化した。)。

信楽農協は、同農協の貸付事業の担当者であった鳥越の不正行為によって約四億七五〇〇万円の損害を被り、同人に対し右同額の損害賠償債権を有していたが、右債権の譲渡担保として株式会社依光から本件土地建物を取得した。本件土地建物には、二個の先順位根抵当権が設定されており、うち一個については、信楽農協において二億三九〇〇万円の和解金を出捐して根抵当権の負担を除去したが、他の一個の根抵当権は極度額二億五〇〇〇万円の債権を担保するものであった(後日判明した実際の債権額は二億一五〇〇万円であった。)ため、信楽農協が本件土地建物を処分することによって前記四億七五〇〇万円の損害賠償債権の全額について弁済を得るには、右金額に先順位根抵当権の負担の除去に要する費用を加算した約一〇億円の価額で換価する必要があったが、本件土地建物の正常な取引価額は約六億五〇〇〇万円ないし約七億円にすぎず、右価額で換価するときは鳥越に対する前記損害賠償債権の半額以上が回収不能となるおそれがあった。そこで、信楽農協の組合長大平及び専務理事大谷は、本件土地建物により右債権の全額を回収する方策を関係者と協議した結果、本件建物を病院に転用し、新たに設立する法人に本件建物を一〇億円の価額で買い取らせ、右法人の本件建物における病院経営による収益の中から信楽農協は逐次右売買代金の支払を受けて、これを前記損害賠償債権の弁済に充当することとし、その代償として、右法人による病院経営が軌道に乗るまでの間右法人に対し資金面で援助協力するという計画が立てられた。かくして、右計画に基づき、医療法人光陽会設立準備委員会が信楽農協から本件土地建物を代金一〇億円の約で買い受け、右売買代金の内金として一億円を支払い、信楽農協は、その後二億一五〇〇万円を出捐して本件土地建物につき設定されていた根抵当権の負担を消滅させ、本件土地建物を光陽会設立準備委員会に引き渡した上、同農協自身が注文主となって被控訴人に対し本件建物の一部を診療所に改造する第一期改修工事を請け負わせた。その後光陽会が株式会社として設立されたため、光陽会は直接被控訴人に対し第一期改修工事代金を支払ったほか、信楽農協に対しても売買代金の内金二億円を支払い、本件建物の一部において診療業務を開始した。次いで、第二期改修工事により本件建物のその余の部分を改造して病床を増設し、本件建物を本格的な病院とすることとなり、光陽会が被控訴人に対し右工事を発注したが、光陽会は財政的基礎が薄弱で、資金は全部借入金に依存しており、しかも借入金中から第一期改修工事代金や本件土地建物の売買代金の内入金を支払ったため、当時ほとんど資力がなかったところから、被控訴人は光陽会の負担する第二期改修工事代金債務について信楽農協の保証を求めた。信楽農協は、光陽会の右債務について保証をしなければ本件建物の病院化が実現不可能となり、光陽会から本件土地建物の売買残代金七億円の支払を受けることができなくなるため、被控訴人の右要求に応じて本件連帯保証契約を締結するに至った。

右の事実に基づいて考察すると、信楽農協が非組合員である光陽会の請負代金債務について被控訴人に対してした連帯保証は、究極的には鳥越に対する同農協の損害賠償債権の回収を目的とし、その担保物の売却処分に附随して行われたものであって、一般に農業協同組合が組合の債権を回収するため担保物件を適正な価額で処分し、又は処分を前提としてその保存、管理に必要な行為を行うことは、組合の本来の事業に附帯する事業の範囲内に属するものというべきであるから、これに附随して行われる債務負担行為は、組合の事業の遂行のため不適当とはいえない場合が多いことは否定し得ない。

しかしながら、本件においては、信楽農協は、鳥越に対する前記債権の譲渡担保として取得した本件土地建物を売却処分するに当たり、その客観的な交換価値を著しく上回わる価額で換価することにより右債権を全額回収することを企図し、資力のない光陽会に本件建物で病院を経営させ、その収益中から逐次売買代金の支払を受けることとし、光陽会の病院経営が軌道に乗るまで資金面で援助協力することを代償に、本件土地建物を時価の四割ないし五割増の価額で買い取らせた上、本件建物を病院に改造するため光陽会が被控訴人に対して負担した債務について本件連帯保証をしたものであって、光陽会の経済的基礎が薄弱であること及び光陽会が病院経営により十分な収益を挙げ得ることについて確実な保証があった事実は認められないことに照らすと、光陽会に対する本件土地建物の売却処分及びこれに附随して行われた本件連帯保証は、営利を目的とした多分に損失の危険を伴う投機的行為であって、担保物の換価のため通常必要とされる行為の限界を逸脱するものといわざるを得ない。

もっとも、本件土地建物を正常な取引価額で換価するときは、信楽農協の鳥越に対する四億七五〇〇万円の損害賠償債権の半額以上が回収不能となるおそれがあったことは前叙のとおりであるが、この程度の欠損金が生じたとしても、そのため信楽農協が直ちに財政的破綻を来たすものと断定し得る証拠は見当たらないので、右債権の全額回収を企図して行われた前示売却処分に附随する本件連帯保証が、信楽農協の存立を維持するため必要やむを得ない行為であったものと認めることはできない。

そうすると、本件連帯保証は、これをするについて信楽農協の本来の業務遂行のため不適当とはいえない特段の事情があったということはできず、かえって、その投機性の故に、同農協の経済的基礎を危くし、組合員の利益に反するものであったというほかはない。

3 以上説示の理由により、大平が信楽農協を代表して非組合員光陽会の被控訴人に対する請負代金債務についてした本件連帯保証は、同農協の事業の遂行のため必要な範囲外の行為として、無効であると解すべきである。

(吉江 近藤 渡邉)

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